google9e72caac10953e45.html

カレン素数の日記

1000文字程度の文章をぼちぼち更新しています。暇つぶしの読み物にどうぞ

少女少年であった人へ

印象に残っている小説がある。

海外作家の作品を集めた短編集の中のある一編だ。

高校の図書室でたまたま見つけた。海外作品なのになぜだか宮沢賢治の横に置いてあった。誰もここ数年触っていないらしく、随分ホコリに被っていた。

その本はもう絶版で、新品で手に入れるのは非常に難しいだろう。Amazonでもプレミアがついていた。

 

タイトルは「昨日のように遠い日」。そして「少女少年小説」とタイトルの横に小さく印字されている。しかしいわゆる少年小説、少女小説とは全く違うお話ばかりだ。

 

その中に、「修道者」と付けられたマリリンマクラフリンの短編がある。彼女の作品で日本語に翻訳されているのはこの一遍のみ。しかし翻訳されていない作品も、この短編とは雰囲気がかなり違う絵本ばかりで、「少女少年小説」と呼ぶのにふさわしいとは言えない。

 

主人公は大人になることに拒否反応を示す女の子。ご飯を食べず、ガリガリにやせ細っている。「もうちょっと軽くなったら空を飛べる」と彼女は言う。お洒落なお洋服を着ることも拒み、「女性らしく」なることを非常に恐れていた。そんな彼女に両親やクラスメイトは腫れ物を扱うかのような態度を示す。見放された彼女はアイルランドに住む変わり者の祖母の所へ送られる。

ベリーと木の実をポケットに入れて、彼女は毎日海へ散歩に行く。田舎の祖母の元でゆっくりと、少しずつ変わっていく少女の心が、きめ細やかに新鮮に綴られているその短編は、私に衝撃を与えた。

表現は丁寧で、文化的で、原始的で、その女の子にも、読者にも真摯に向き合っていた。

 

この本を、この短編をとにかく他の誰かにも読んで欲しくて、手当り次第友人らに読ませたのを覚えている。

いつか古本が私のところに巡ってくるのを待っている。手元に欲しい本だからだ。

なんでこんなに素敵な本が絶版になってしまっているのかさっぱりわからない。人類の損失だと思う。

 

マリリンマクラフリン以外の短編もどれも素敵で、レベッカブラウンの「パン」というお話も最高だった。

女の子の世界の微妙な歪みを丁寧に描いていて、恋とか憧れとか、読んだ全ての人間はとりあえず顔を覆うと思う。恥ずかしさとエモさとみっともなさと彼女の純粋な心に打ちのめされるだろう。

あらすじを懇切丁寧に説明したいんだけど、それはとっても難しい。あの繊細さを表すことは私にはできない。

 

図書館に行ったらまだ存在しているだろう。

少女少年小説」とは言うけれど、少年少女時代が遠い日になってしまった大人たちのための本だと思う。こんなに素敵な小説、もし少女時代に出会ってしまっていたら全部狂っていたかもしれない。