勉学は娯楽を楽しむためにある
娯楽を楽しむためには、勉強が必要である。
なくても楽しめるかもしれないけれど、知識の量は娯楽の楽しみ度を大きく動かす。
少し前、「パドマーワト」という映画を見た。インドの映画で、500年前に生み出されたインド古来の伝記がモチーフになっている。
舞台はデリー・スルタン朝時代の、13世紀ハルジー朝の頃である。ハルジーのスルタンであるアラーウッディーンに敗れたメーワール王国の王妃が主人公だ。
さてここまでのあらすじを読んで、世界史の知識がある方は思うところがあるだろう。
逆になにも知らない方はどうだろうか。何か知らないカタカナがたくさん並んでいるように思われるかもしれない。
私は高校の時世界史選択だった。だから私はデリー・スルタン朝、と聞いて「北インド」「イスラム」「五代王朝」というキーワードを思い出す。デリーは北インドの都市であること、スルタンというのはイスラム教国の支配者を指すことも知っている。デリー・スルタン朝の五代王朝は、奴隷、ハルジー、トゥグルク、サイイド、ロディー、の順番である。これは受験期に何度も唱えた。
映画で敵とされるアラーウッディーンも教科書に載っていた。ハルジー朝の第3代スルタンで第2のアレクサンドロスと呼ばれる男である。
また映画の中で、メーワール王国側では「ラージプートは諦めない、ラージプートは負けない」と鼓舞する言葉がよく出るが、このラージプートというのも世界史の授業を受けていればなんのなしに分かる言葉である。
しかしこの映画を見ている時、私にとっては面白いけど、なにも知識のない人はこれを面白いと思うのだろうかと何度も不安に思った。
ラージプートが民族の総称だと分かるのだろうか。映画の始まる前に出た「サティ(寡婦遵守)を推奨するものではありません」という文言も意味をきちんと理解出来るのだろうか。
同様に、自分自身の知識の少なさも顕になった。知らない土地の名前や地域のお祭り、文化の表現もたくさんあった。
「サティ」は分かっているつもりだったが、後で調べてみるとサティは白檀の薪を使う、とあった。映画では、主人公らを裏切る僧侶の香りが白檀である、という表現が何度もされていた。これはきっとサティとの関連があったのかもしれない。自分の知識の甘さを恥じたし、そのように自分が気づかなかっただけで、他にも伏線が隠されていたかもしれないと思うと、100%この映画を楽しめたとは言えない。
数ヶ月前、Twitterでこんな漫画がバズった。
https://twitter.com/riko3_/status/1119429228062101504?s=21
私はこの漫画を読んで最初に思ったのは、勉強しなかったら勉強の意味もこの程度に収まってしまうものなのか、というなんとも皮肉な感想である。私自身上から言えるほどの知識は持ち合わせていないが、そんな単純な直結することだけにしか結びつかせることが出来ないほどではない。実際はもっと複雑に綿密に勉学は生きていく上で形を変えて絡みついてくるものである。
私は私に知識が足りてないことを知っている。ソクラテスの唱えた無知の知、である。これは森羅万象どのようなことでも言える。
例えば、私の友人でピアノをとても上手く弾く子がいる。しかし彼女にピアノ弾くの上手いね、と言ったら、苦い顔をされた。彼女はピアノを習っているからこそ、上には上がいることを知っていて、自分の能力を上と比べて評価しているのだ。逆に私はピアノなんて縁のない人生を歩んできたから、ピアノが弾けるだけで十分凄いと思ってしまう。でも、彼女にとってはそうではない。私はピアノに対して単に無知で、彼女は彼女の無知を、まだまだ上が存在することを知っている。
私はまだまだ無知である。
海外ドラマを見ていて、意地の悪く男勝りな女性を「イギリス版マクベス夫人だ」と揶揄するシーンがあった。
マクベス夫人を知らなければスルーして、そのままドラマを続けて見てなんの問題もないシーンである。しかしここで「マクベス夫人」を知っているとクスッと笑える。マクベスはデンマークのお話でシェイクスピアの4大悲劇のひとつだ。夫人はなかなかに恐ろしい女性で、でも少し可哀想な女性だ。イギリス版、とわざわざ言うが著者はイギリス人というのもなんだかおかしい。
知識は娯楽を豊かにするし、会話を豊かにする。同じコンテンツでも受け取る人によって楽しさの度合いが違ってくる、ということはとても悲しいけれどそれが事実。知識がなければ「楽しいこと」が減ってしまうのだ。頭の弱そうなヤンキーのインスタグラムを見てみなさい、みんなどこもかしこも同じような遊び方しかしてないでしょう。
勉強そのものを楽しいと思える力も重要だが、勉強して学んだことを関連させる能力も同様に必要である。そうして関連させることが日常的になれば、なんと勉強の復習になっている。勉学とはこうして身につけていくものだった筈なのに。